道は、必ずひらける。

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Produce by 朝日インテック

WAYS 道を拓く Talk session 道を拓く Talk session

vol.1

ICHIRO UYAMA

FEBRUARY 02, 2021

藤田医科大学病院 総合消化器外科教授 宇山一朗
藤田医科大学病院 総合消化器外科教授 宇山一朗

藤田医科大学病院 総合消化器外科教授 宇山一朗 × 朝日インテック株式会社 代表取締役社長 宮田昌彦 藤田医科大学病院 総合消化器外科教授 宇山一朗 × 朝日インテック株式会社 代表取締役社長 宮田昌彦

先進国の中で、最も胃がんの多い国として知られる日本。藤田医科大学の宇山一朗教授は、身体への負担の少ない低侵襲手術を追求し、これまで多くの命を救ってきた。2008年には全国に先駆けて手術支援ロボット「ダヴィンチ」を導入。その先進医療の承認に力を注ぎながら、現在はトレーニングセンターで後身の育成も行う。

今回はがん治療の新たな道を拓く宇山教授と、朝日インテック代表取締役社長の宮田昌彦が、それぞれの信念について語り合った。

INDEX

アウェイな環境で切り拓いた
胃がんの腹腔鏡下手術

ICHIRO UYAMA

藤田医科大学病院 総合消化器外科 宇山一朗教授と朝日インテック株式会社 宮田昌彦社長

「WAYS」では、ご出演いただく方の「道」や「信念」をうかがっています。最初に宇山教授が医学の道を志したきっかけからお聞かせください。

宇山 : 私の父親は一般の会社員だったため、小さな頃から特に医師という職業を意識したことはありませんでした。高校の頃はフェンシングに熱中していて高校総体にも出場しましたので、進路を考えだしたのは部活を引退した高校三年の夏頃。理系クラスにはいましたが、自分が研究者になるイメージはなく、当時の担任から医学部を薦められて受験することになったんです。
進学した大学では当初、膠原病に興味を持ちました。しかし膠原病は、治すことよりも診断を行うことに力点が置かれるんですね。そんなときに外科の実習で、執刀する医師と、手術を受け感謝する患者さんの姿を見て、自分のめざす道はここだと思いました。

宮田 : 宇山先生が医学の道を志されたきっかけについては、私も一度お話をうかがったことがあり、今のご活躍からは想像ができず驚きました。初めて先生にお会いしたときのことは今でも鮮明に覚えています。
朝日インテックが医療分野でさらに貢献できないかと考えたときに、地元の藤田医科大学に宇山先生がいらっしゃることを知り、どうやったらつながることができるか模索していました。ようやく、人づての懇親会でお会いできたのですが、とても緊張していた私にフランクに話しかけてくださって。それから懇意にしていただき、現在は製品開発でもお力を借りております。「WAYS」の第一回にご出演いただけたということで本当に嬉しく思っています。

腹腔鏡下手術による胃切除術で胃の全摘に世界で初めて成功され、現在までに1000例以上の腹腔鏡下胃切除を執刀されています。宇山先生はどのような経緯で低侵襲手術に取り組むことになったのでしょうか。

宇山 : 岐阜大学で学んだ後、教授の推薦で慶応大学の外科学教室に入局しました。そちらでひと通りのカリキュラムを経て所属グループを決めるとき、最初は肝臓外科を志望したのですが、定員オーバーだったこともあり、たどり着いたのが胃外科グループだったんです。
外科医になった当時は開腹手術しかありませんでしたが、私が31歳のとき腹腔鏡が導入されます。最初の頃は医師の中でも「モニターを見て行う手術は言語道断」という風潮がありました。今でこそ最大8Kの画質で見られますが、当時はわずか7万画素でしたから。それでも、芸能人で腹腔鏡の手術経験が報道で話題に上ると、少しずつ希望される患者さんが増えていきました。当時の上司が、“新しい手術は次の世代がやるべき”という考えで、私に担当させてくれたため、腹腔鏡下手術に積極的に取り組むようになりました。
やがて国内では大腸がんで腹腔鏡下手術が始まったことを受け、自分の専門分野である胃がんでもやるべきではないかと。もっとも、その頃の手術用の鉗子はカーブしておらず真っすぐなものだったり、周囲からは「傷が小さくても再発しては意味がない」という声があったりと、かなりアウェイな環境の中で胃がんの腹腔鏡下手術を行ったことを覚えています。その後1997年に現在の藤田医科大学に異動しますが、大学からの手厚いサポートがあったおかげで、腹腔鏡下手術を続けることができました。

宮田 : 日本に腹腔鏡が導入された1990年初頭といえば、当社が医療分野に参入しようと研究開発を進めていた頃。元々は工業用のワイヤーを主体として事業を行う中で、医療分野開拓のきっかけとなったのが、内視鏡のカテーテル治療に必要なワイヤーです。その後、海外製品が主流の中、循環器系領域の治療用ガイドワイヤーで少しずつシェアを拡大していきました。

医師の声と企業のテクノロジーが
ロボットの可能性を広げる

藤田医科大学病院 総合消化器外科 宇山一朗教授と朝日インテック株式会社スタッフ

宇山教授といえば手術支援ロボット「ダヴィンチ」の第一人者としても知られています。最初にダヴィンチと出会ったときの印象を覚えていらっしゃいますか。

宇山 : 2006年に王貞治元監督の胃がん摘出手術を担当することになりました。これがエポックメイキングとなり、藤田医科大学には同じ手術を希望する患者さんが増え、さまざまな紹介を受けるようになっていきます。
時を同じくして、かつて私が腹腔鏡下手術を教えた韓国の延世大学のヒョン・ウジンから、大学に導入したダヴィンチを見に来ないかという話がありました。そのときに見た初代のダヴィンチは「自分の腹腔鏡手術のほうが精度が高い」という印象でしたね。
その後2008年に、ヒョン先生から第二世代のダヴィンチSが入ったと連絡があり、再び見に行くとこれが素晴らしくて。このままではロボット手術で隣国に後れを取ってしまうと感じ、なんとか大学でも導入できないかと。しかし当時は薬事未承認だったので、購入するのに248万ドル、その頃の日本円で2億円強という価格。高額な値段もさることながら、全国的に腹腔鏡下手術で信用を積み重ねていた藤田医科大学が、未承認のロボット手術によって医療事故でも起こしたらと、最初は導入に消極的な意見がほとんどでした。

ダヴィンチ導入にあたっても、当初は高いハードルがあったのですね。

宇山 : この地域はがん診療の激戦区でもあるので、大学は最終的にプロパガンダの期待も込めてダヴィンチの導入を認めてくれましたが、今度はアメリカの製造元インテュイティブ・サージカルから、「購入後にどのように使うかプランを提出してください」と言われてしまいます。
私は自分の専門である早期胃がんでの利用を考えていましたが、アメリカでは胃がんは難しい手術に分類されるため、最初は胆石やヘルニアの手術で実績を積まないと売らないと。そこで自分が執刀したビデオを編集し「私が行う胃がん手術は、アメリカ人の胆石手術と変わらない」と説得し、ようやく製造元にも納得してもらったという経緯があります。

宮田 : 私が初めてダヴィンチのことを記事で知ったときには、「ロボットで手術ができるのか」と半信半疑でした。医師の手で執刀したほうが患者さんにとって安心・安全ではないかと。それから宇山先生にお声がけいただき、先生がダヴィンチで手術をする様子を見学いたしました。医師の手では難しいところをロボットを使ってきれいに切り取る様子を目の当たりにして、ロボット支援手術に関する考え方が一気に変わりましたね。

宇山 : ある程度の胃がんの手術は、難しいものでも腹腔鏡でできると思っていましたが、限界もあるとわかっていたんですね。また、腹腔鏡下手術のゴールは「開腹手術より小さな傷で同等の成果を」というところでしたが、それだけで良いのかとも考えていました。ダヴィンチを使えば、開腹手術や腹腔鏡下手術よりも術後の成績が良くなる可能性があるのではないか、そんな可能性も感じていました。

今後、ロボット支援手術はどのように進化していくのでしょうか。またその中で朝日インテックに期待していることをお聞かせください。

宇山 : ロボット支援手術はコストがかかりますし、医療費も高額です。高額なのに腹腔鏡下手術と同等の成果では意味がありませんので、より良い成績を挙げて、患者さんに対してベネフィットがあることを示していかなければ、ロボット支援手術は生き残れません。
また、現在ダヴィンチは第四世代となり、私たち医師の感じる欠点を克服しながら進化をしました。それでも必ず限界はあるので、新たなテクノロジーをもって克服していかなければなりません。医師はエンジニアではないので、企業と連携をして、どんどん良い形にしていくことが必要です。

宮田 : 朝日インテックのワイヤーを中心とした技術を、外科治療においても活かしていきたいと考えています。ロボット支援手術も対象の一つであり、ロボットの駆動部分に当社のワイヤーテクノロジーを活用したり、実際に手術を行うアーム部分の開発を行ったりすることを構想しています。
具体的には、国立がん研究センターの認定ベンチャーで、腹腔鏡下手術支援ロボットの開発を進めるA-Tractionをサポートするなど、すでに取り組みが始まっています。また、カテーテル治療を担当する医師は、放射線の被ばくがあったり、立ちっぱなしで手術したりとかなりの負荷がかかります。カテーテル治療のロボット化にも力を発揮し、医師の負荷軽減に貢献したいとも考えています。

精度が高く“再現性”をもった
手術を極めていく

藤田医科大学病院 総合消化器外科 宇山一朗教授

宇山教授のお話からは、藤田医科大学の新しいことに挑戦する姿勢もうかがえます。大学に流れるイズムについて、どう捉えていらっしゃいますか。

宇山 : 藤田学園の創設者である故・藤田啓介総長がたてられた建学の理念「独創一理」。これは、個人がもつ創造力で新しい時代を切り拓くというクリエイティブな理念であり、新しい事に取り組む姿勢に対しては非常にサポーティブなことは間違いありません。ダヴィンチの導入もそうですし、今でこそ普通となった臓器移植に積極的に取り組んできたのも、独創一理の理念が息づいているからでしょう。

宮田 : 国内最多の病床数など、規模にも圧倒されます。そして宇山先生がおっしゃったように、ロボット支援手術でも抜きん出た存在であり、非常に独創性のある大学ですね。直近では、新型コロナウイルスの感染拡大にともない、政府の緊急要請を受け、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号の無症状病原体保有者や同行者の受け入れを行われたのも、この大学だからできたことだと感じます。

ともにフロントランナーとして道を切り拓く、宇山教授、宮田社長の信念をお聞かせください。

宇山 : 常に医局員に言っているのは「藤田医科大学はがん患者の最後の砦であり、他で手術を断られた患者さんがやってくる。だから、とても状態が厳しい状況でも可能性が0でなければ手術でがんを取り除こう」と。もちろん、患者さんのリスク、医療側のリスクは軽視できませんが、最後の砦というスタンスは持ち続けています。
また消化器外科は、剥離、切理、縫合、結紮という技術の組み合わせであり、その一つずつに守るべき基本手技があります。基本ができていれば、それを積み重ねれば難しい手術もできるでしょうし、終わったあとはきちんと評価もし、次に伝承をしなければなりません。これまでも繰り返してきたことですが、これからもこの考えは変わらないでしょう。

宮田 : 信念といえば当社のDNAでありますが、「スピード」と「対応力」を常に意識しています。医療業界に参入して感じたことは、現場でトップを走る先生がたは常に高みを追求していらっしゃるということ。“もっと患者さんのためにできることがあるのではないか”という先生がたの想いに応えるためには、当社が「できない」と言ってシャットダウンしては話が進みません。
だからこそ「できるためには、どうすればいいか」という考えをもち、技術力を磨きながらスピード感をもって対応していくことが重要です。そして研究開発においては、現場で何が行われているかを正しく知ること。そのためには謙虚に足を運び、しっかりと理解する「現場主義」も欠かせません。

最後に本日の総括として、がん治療を含む医療の展望と、その中で果たしたいご自身の使命についてお聞かせください。

宇山 : 私がやっている「手術」という治療は、がん治療においては局所的なものです。すべての臓器を取るわけにはいかないので、手術できる範囲の中でいかに素晴らしい成果を残すかが肝要です。合併症を起こすと免疫機能が下がり、がんの再発が高くなるという報告もありますので、患者さんの個体差を問わず再現性をもって確実な手術をしなければなりません。そのためには人間の手だけでは限界がありますので、ロボットも使いこなしていく。今後はロボットを活用した遠隔治療、遠隔支援もキーワードになることでしょう。
また、全身治療と言われる抗がん剤治療や免疫療法も進歩する必要があります。全身治療と局所治療それぞれのスペシャリストが、各々何をすべきか十分に理解して、がん治療に取り組んでいく。そしてテクノロジーの限界が来たら企業と連携して、さらに進歩をしていく。
私自身はこれからも、いかに精度が高く“再現性“をもった手術を極めていくことに、今後とも努めていきたいですね。

宮田 :弊社の社員の中にも何人かがんで亡くなっている方がいまして、朝日インテックとしてもがん治療の分野に貢献したいと考えています。
一つは先ほど申し上げた外科のロボット支援手術への技術提供です。もう一つは、患部に薬を運ぶ“ドラッグデリバリー”では、カテーテルなどのインターベンションの技術が必要とされますので、そういった分野の医療機器の開発でもお役に立ちたいと考えています。
朝日インテックでは引き続き、医師の皆様との連携のもと技術革新に努めながら、全世界の患者様のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めてまいります。

藤田医科大学病院 総合消化器外科 宇山一朗教授と朝日インテック株式会社 宮田昌彦社長

取材・文=鬼頭英治(エディマート)/
写真=太田昌宏(スタジオアッシュ)

藤田医科大学病院 総合消化器外科 宇山 一朗教授

藤田医科大学病院 
総合消化器外科教授

宇山 一朗ICHIRO UYAMA

藤田医科大学病院 総合消化器外科講座教授、診療科長、サージカルトレーニングセンター長、ダヴィンチ低侵襲手術トレーニング施設長。1985年岐阜大学医学部卒業、慶應義塾大学外科学教室入局。1991年練馬総合病院勤務、1997年藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)医学部外科学講師就任、2006年同科教授。同年、王貞治氏の胃がんの腹腔鏡下手術を執刀。現在までに腹腔鏡下胃がん手術は1000件以上の経験を持つ。

朝日インテック株式会社 代表取締役 宮田 昌彦社長

朝日インテック株式会社 
代表取締役社長

宮田 昌彦MASAHIKO MIYATA

1992年関西大学大学院工学研究科電子工学専攻修了。1992年NTTデータ通信入社。1994年朝日インテック総括本部企画室長。経営企画部長、メディカル事業部長付兼生産技術部長、メディカル事業部長、専務取締役、代表取締役副社長を経て、2009年より現職。2010年中京大学大学院ビジネスイノベーション研究科(経営管理学)修士。

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