Vol.6
医療技術の未来を描く
〜2025年大阪・関西万博への挑戦〜

2025年大阪・関西万博のパビリオン「PASONA NATUREVERSE」において、朝日インテックは「未来の医療~リモート操作による空飛ぶ手術室~」を展示する。血管に細い管(カテーテル)を通して治療を行う、最先端の医療機器を手がける当社。研究開発型のものづくり企業が描く、医療の未来とは——。プロジェクトリーダーを務めるCV製品開発グループの中川雄太と、デザインの視点でプロジェクトを推進する新規事業本部の河村健太が、その構想を語った。
医療機器メーカーの威信をかけ
ゼロから作り上げたプロジェクト

そのプロジェクトは、万博開幕の約1年半前に始動した。
パソナグループの南部靖之代表と当社会長との縁から、「いのち、ありがとう」をテーマとするパビリオンへの出展が決まったのだ。パソナグループのパビリオン「PASONA NATUREVERSE」は、「からだ・こころ・きずな」という3つのゾーンで構成。当社はその「からだゾーン」において、最先端の医療技術を体感できる展示を担当することとなった。
「医療機器メーカーとして、日本で頑張っているメーカーとして、スポットが当てられたのだと思います」と語るのは、プロジェクトリーダーの中川だ。大阪出身でもある中川は、カテーテル開発チームの副チームリーダーとして日々の業務に携わっていた。「大阪を盛り上げるためだったら頑張ります」と即座に引き受けたという。
プロジェクトは広告代理店、デザインファームを含む4社での協働体制でスタート。当社からは中川をリーダーに、6名のメンバーが参画した。新規事業本部で事業開発プロジェクトを担当する河村は、前職までのプロダクトデザイナーとしての経験を買われ、プランの具体化を担当。「医療現場のリアルな情報を展示に反映させるため、中川さんとデザインファームの間に立ち、表現方法を咀嚼して伝える“橋渡し役”を担ってきました」と振り返る。

展示内容は、文字通り「ゼロ」からのスタートだった。「パビリオンの『箱』自体はあったものの、実際にどこで何をやるかは、半年前まで固まっていませんでした」と中川は説明する。隣接する別会社のコーナーとの調整や、パビリオン全体の動線計画など、さまざまな要素を考慮しながらの検討が続いた。ピーク時には他社を含め総勢20名以上となるメンバーによるオンライン会議を重ね、現在の形に。最終的に当社のスペースは、当初の想定から3倍ほどに拡大した。
最先端の血管内治療技術を
誰にもわかりやすく

血管内治療は、体の外から大きく切開することなく、血管を通して患部を治療する最先端の医療技術だ。当社が手がけるガイドワイヤーは、その治療に不可欠な医療機器として、国内外で高い評価を得ている。今回の展示では、この精緻な技術をいかにわかりやすく一般の来場者に伝えるか——それが開発チームの大きな課題となった。
コーナーの核となるのは、実際の手術で使用する極細のガイドワイヤーを用いた体験コーナーだ。来場者は「押し」「引き」「回転」という基本操作を通じて、医師たちの繊細な技術を体感できる。血管の分岐部分での操作など、実際の手術現場に近い状況も再現。医師が実際に見ている画面と同様の映像を見ながら、治療の難しさと面白さを体験できる仕組みを整えた。
体験コーナーの開発には、数々の工夫が施されている。「造影機能を再現することで、実際の手術のように血管が見えたり見えなかったりする状況を表現しました」と中川。医療現場のリアリティを追求しながら、同時に体験者が楽しめる要素も盛り込んだ。到達点へのスコアリングなど、ゲーム性を持たせることで、子どもから大人まで楽しめる展示を目指した。
プロジェクトメンバーは検討段階で、部品メーカーの体験型ショールームを視察。構成物の大きさや配置、操作方法など、多くのヒントを得たという。「ショールームをつぶさに見て、『ハンドルは大きい方がいい』『何かを持つか回すアクションを必ず入れる』といった工夫を学びました」と河村は記憶をたどる。
「紡いだ技術を、すべての人へ」
プロジェクト全体を貫くコンセプトは河村が決めた。このメッセージには、これまで重ねてきた歴史を礎に、医療技術の可能性をさらに広げていきたいという想いが込められている。その想いは、やがて遠隔医療という新たな未来像へとつながっていく。
体験しながら感じられる
遠隔医療が拓く未来

医療技術の可能性を広げる——。その先に見えてきたのが、遠隔医療という新たな領域だ。当社の統合報告書が示すように、スマート治療から遠隔医療への展開は重要なテーマとなっている。今回の展示では、「リモートオペレーションセンター」と「空飛ぶ手術室」という二つのコーナーを通じて、世界中どこにいても最先端の治療が受けられる未来を提案する。山間部や離島等の僻地、さらには海上の船舶でも最先端の治療が受けられる『未来の医療』。パビリオンでは、そんな可能性を示していく。

「社内でも遠隔治療という将来像は、まだ十分に浸透していません」と河村は語る。「今回の展示を通じて、社員一人ひとりにも当社の目指す未来を実感してもらえれば」。日々の業務に追われる中で、その先の未来を見据える機会として、この出展には大きな意味がある。
医療技術の普及という観点からも、今回のプロジェクトが果たす役割は小さくない。日本は少子高齢化が進む中、医療従事者の確保が喫緊の課題となっている。「子どもたちに医療機器という分野を知ってもらい、将来の仲間を増やしていければ。さらには日本の医療技術を世界に展開していく可能性も広がるはずです」と中川は期待を込める。

2人にとっての「道(WAYS)」も、それぞれの経験に根ざしている。「工学とは人の役に立つものを作ること——。大学時代の恩師から学んだその言葉を常に心に置いています。医療従事者や患者さんに役立つものを作り出すこと。それが私の信念です」と中川。
河村もまた、独自の信念を持つ。「ものづくりを通して、企画者の想いやユーザーの課題を共通言語化し、人の心が躍る瞬間を作ること」。前職では消費財のデザインに携わっていた河村だが、今は医療機器という、人々の生命に関わる製品開発に充実感を見出している。
「医療・手術というと怖いイメージがあるかもしれません。でも、血管内治療という新しい技術には、安全で安心な未来が広がっています。それを楽しみながら発見してほしい」と河村。中川も「実際に触れて体験することで、きっと楽しさを感じていただけると思います。社員の皆さんも、ぜひご家族と一緒に、私たちの仕事を紹介できる機会として活用してください」とメッセージを送る。
2025年、大阪の地で、当社が描く医療の未来図が多くの人々の心に響くことだろう。

▼プロフィール
【中川雄太 YUTA NAKAGAWA】(写真左)
CV製品開発グループ カテーテル開発チーム 副チームリーダー。2011年入社。大阪出身。大学では血管内の流体実験などバイオメカニクスを研究。入社以来、カテーテル開発に従事。
【河村健太 KENTA KAWAMURA】(写真右)
新規事業本部 事業開発グループ製品開発チーム 研究員。前職でプロダクトデザイナーとして家具・雑貨のデザインに携わった後、2016年に入社。新規事業の企画立案から製品開発まで幅広く担当。
写真=太田昌宏(スタジオアッシュ)